分光座標の基本概念

分光学的座標軸としては 3つの物理量、周波数 ($ \nu$)・波長 ($ \lambda$)・見かけの速度 ($ v$) (ドップラー速度) が考えられる。 この場合の見かけの速度(ドップラー速度)は当該スペクトル線の静止周波数を $ \nu_0$ として $ \nu = \nu_0\sqrt{\frac{c-v}{c+v}}$ である。 ドップラー速度以外に天文学でよく使われる「速度」としては次のものがある。 すなわち、



「電波」速度 (“radio” velocity: 電波天文学で使われる) $ V = c(\nu_0 - \nu)/\nu_0$
「可視光」速度 (“optical” velocity: 光学天文学で使われる) $ Z = c(\lambda - \lambda_0)/\lambda_0$
(周波数で表わして $ Z = c(\nu_0 - \nu)/\nu_0$ でもよい)



である。 $ Z$ を無次元量にした $ z\equiv Z/c$ はいわゆる赤方偏移 (redshift)である。 速度が小さい場合は $ Z -V \approx v^2/c$ の関係がある。

ある天球座標位置での分光軸は、波長・周波数・速度のいずれかについて等間隔目盛りになっているものとする。 電波および可視光での「速度」は、それぞれ周波数または波長に直接比例する。 周波数と波長の軸はその対数について等間隔である場合があり得る。 波長はときどき真空中よりも「空気中」の波長で与えられることがあり、周波数はエネルギー単位($ = h\nu$, 単位'eV') や波数 (カイザー, $ = 1/\lambda$, 単位'/cm') で表すこともある。

Paper I, II で触れたように CTYPEka19の最初の 4文字は座標の種類を指定し、5文字目は '-' であり、次の 3文字は中間世界座標から世界座標に変換するためのアルゴリズムを指定する。 例えば可視光速度を周波数でサンプリングした場合はCTYPE3Z= 'VOPT-F2W'などとなる(6.5.2.3 も参照)。 k が分光軸の場合は最初の 4文字は以下の通りである。



CTYPEka前半4文字 名前 記号 関係する 標準の単位
のコード     基本変数  
FREQ 周波数 $ \nu$ $ \nu$ $ \mathrm{Hz}$
ENER エネルギー $ E$ $ \nu$ $ \mathrm{J}$
WAVN 波数 $ \kappa$ $ \nu$ $ \mathrm{m}^{-1}$
VRAD 電波速度 $ V$ $ \nu$ $ \mathrm{ms}^{-1}$
WAVE (真空中の)波長 $ \lambda$ $ \lambda$ $ \mathrm{m}$
VOPT 可視光速度 $ Z$ $ \lambda$ $ \mathrm{ms}^{-1}$
ZOPT 赤方偏移 $ z$ $ \lambda$ $ \mathrm{-}$
AWAV (空気中の)波長 $ \lambda_a$ $ \lambda_a$ $ \mathrm{m}$
VELO 見かけの速度 $ v$ $ v$ $ \mathrm{ms}^{-1}$
BETA ベータ因子($ v/c$) $ \beta$ $ v$ $ \mathrm{-}$
       

単位をスケーリングするためには IAU 標準記法を使う (いわゆる M (メガ)、G (ギガ)などのこと)。

CTYPEka の最後の 3文字については、非線形アルゴリズムの場合、最初の 1文字はデータが通常サンプリングされた物理パラメータを表し、最後の 1文字は座標が表現される物理パラメータを表す(例えば'LOG'等の、このルール以外の非線形アルゴリズムのコードもある)。これについては 6.5.2.3 参照。 線形アルゴリズムの場合は、CTYPEka の最後の 4文字は空白でなければならず、これは WCS Paper III のドラフト段階の案とは違っているので注意すること。

Osamu Kanamitsu
2019-02-15