D. Wells は 1981 年ころから、天球座標とデータ配列(天体イメージの x, y などだけでなく、スペクトルの波長軸やストークスパラメータのようなものも含めて)の間の対応を表現するためのシステムが必要であることを認識し、必要なキーワードの提案を行っていた。 これが World Coordinate System (WCS) の端緒である。 その後、電波天文分野の製約ソフトウェアである AIPS (3.1.2.2 参照) の開発に関連して、Greisen はもう少し詳しい規定を提案し、これらは電波天文分野をはじめ、他の分野(X や光赤外など)にも波及していった。
WCS が正式に議論されるようになったのは、1988 年 1月に NRAO で開催された会合でのことであり、AIPS での規約をもとに、スケーリングや歪みを取り入れた一般的な WCS の提案がなされた。 この会合で提案された表記法のバリエーションが HST を運用する STScI や IRAF を開発する NOAO などで取り入れられ発展していった。
1992 年の ADASS ミーティングでの議論を踏まえて、Greisen と Calabretta が 1992年 12月に WCS のドラフトを作成し、1993年 6月に Berkeley で行われた AAS (American Astronomical Society) の会合で提示した。 ここでの D. Tody (NOAO) との議論を踏まえて改訂されたバージョンが 1993年 8月に配布され、その後、1996年には Binary Table と歪みを持った実イメージの変換法について追加した WCS が提案された。
ここからの数年は標準化の動きにあまり進展がなかったが、1997年、1998年の ADASS で引き続き議論され、1999年には Calabretta と Greisen がその結果を提示した。 1999年の ADASS で WCS の標準化を投票しようとする動きが出たが果たせず、2001年 6月 30日に NOAO の F. Valdes, D.Tody, L. Davis らによる一般化の提案を受けて改訂された WCS が 3つの Paper として提示された。 この 3つの WCS Paper はさらに機器関係の部分を 4つ目の Paper に分離することとなり、WCS Paper I - III が 2001年の ADASS で提示された。 その後、WCS Paper III (スペクトル関係) にはまだ議論の余地があるということで、WCS Paper I, II についてアメリカの地域委員会で是認され、あと 2つの地域委員会も通って、最終的に 2002年 12月 18日に IAU FWG で標準として是認された。
その後、Paper III についても改訂が進み、2004年10月の公開コメント募集から半年強の手続きを経て2005年8月18日に IAU FWG で正式に認められた(6 章参照)。
また、Paper II にはその後 spherical projection の一部として HEALPix (Hierarchical Equal Area isoLatitude Pixelization) projection が 2006年4月27日に取り入れられた。