WCS で記述された天球座標の解釈の具体例

次のページの表12のようなヘッダのファイルを例に具体的な計算例を示す。


表 13: Example FITS header with coordinates
\begin{table}
{\small\baselineskip=13pt
\protect\begin{verbatim}12345678901234...
...es
EQUINOX = 2000.0 / Equator and equinox of J2000.0\end{verbatim}
}
\end{table}


これは通常の光学イメージのファイルであり、 $ 512ピクセル\times 512ピクセル\times 196プレーン (+ 偏光が1)$ からなることがわかる。

CRPIXjキーワードから参照点はピクセル座標の (256, 257, 1, 1) であり、PCi_jaキーワードがない(=デフォルトの単位行列) ことから回転や曲がりはないことがわかる。

これらのことから中間世界座標は次のようにして求められる。


$\displaystyle \left ( \begin{array}{c} x \\ y \\ z \\ s \end{array} \right ) = ...
...rray}{c} p_1 - 256 \\ p_2 - 257 \\ p_3 - 1 \\ p_4 - 1 \end{array} \right ) \, .$ (23)


次に 'VELOCITY''STOKES' は線形軸なので簡単に計算でき、次のようになる。



$\displaystyle Velocity$ $\displaystyle =$ $\displaystyle 500000.0 + 7128.3 (p_3 - 1)\: {\rm ms}^{-1},$ (24)
$\displaystyle Stokes$ $\displaystyle =$ $\displaystyle 1 (I {\rm polarization})$ (25)

CTYPE1CTYPE2 によれば、座標の投影法が TAN (gnomonic) なので、zenithal 投影であり、


$\displaystyle \phi$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \arg\,(-y,x) = \arg\,(p_2-257,p_1-256) + 180^{\circ}$ (26)
$\displaystyle \theta$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \tan^{-1} \left ( \frac{180^{\circ}}{\pi}\frac{1}{\sqrt{x^2+y^2}}...
...{-1} \left ( \frac{19098^{\circ}.5932}{\sqrt{
(p_1-256)^2+(p_2-257)^2}} \right)$ (27)

で native 座標の経度、緯度が計算できる18CTYPEiaRADEC で始まっているので赤道座標であり、 RADESYSa, EQUINOXa により、IAU 1984 システムであることがわかる。 また、参照点は zenithal 投影なので native 座標の北極であり、それに対する CRVALi により $ \alpha_P = 45^{\circ}.83$, $ \delta_P = 63^{\circ}.57$ である。



赤道座標の北極は native 座標の経度 $ 180^{\circ}$ であることが LONPOLEa からわかるので、赤経・赤緯は、(19)式から、


\begin{displaymath}\begin{array}{l}
\sin\delta = \sin\theta \sin(63^{\circ}.57) ...
...{\circ}.57) + \cos\theta\cos\phi\sin(63^{\circ}.57)
\end{array}\end{displaymath}     (28)

となり、結局イメージの 3つの隅の座標は、

パラメータ 単位 SEの隅 NEの隅 NWの隅
$ (p_1,p_2)$ pixels (1, 2) (1, 512) (511, 512)
$ (p_3,p_4)$ pixels (1, 1) (1, 1) (196, 1)
$ x$ deg $ 0^{\circ}.765000$ $ 0^{\circ}.765000$ $ -0^{\circ}.765000$
$ y$ deg $ -0^{\circ}.765000$ $ 0^{\circ}.765000$ $ 0^{\circ}.765000$
$ \phi$ deg $ 45^{\circ}.000000$ $ 135^{\circ}.000000$ $ 225^{\circ}.000000$
$ \theta$ deg $ 88^{\circ}.918245$ $ 88^{\circ}.918255$ $ 88^{\circ}.918255$
$ \alpha$ deg $ 47^{\circ}.503264$ $ 47^{\circ}.595581$ $ 44^{\circ}.064419$
$ \delta$ deg $ 62^{\circ}.795111$ $ 64^{\circ}.324332$ $ 64^{\circ}.324332$
Velocity ms$ ^{-1}$ 500000.00 500000.00 1890018.50
Stokes   $ 1.0 \equiv$ I $ 1.0 \equiv$ I $ 1.0 \equiv$ I

となる。

ここでは WCS で書かれた FITS ヘッダの解釈の例を上げたが、原論文には実際の観測データを WCS を使った FITS ファイルにどう書くかについても例が挙げてある (例えば COBE/DIRBE や ロングスリット のデータの WCS ヘッダの構築法など)。 興味のある方は参照されたい。

Osamu Kanamitsu
2019-02-15