分光座標の基準フレーム

周波数、波長と見かけの速度は常に特定の静止基準 (基準フレーム) に準拠し、一方測定は観測者の静止フレームで行われるため他の静止基準への補正が必要となる。 速度補正は方向ベクトルと 2つの基準フレームの相対速度ベクトルの内積から計算される。 (要するにこれは天体の方向に依存する)。

2次元面に付随する周波数・波長・見かけの速度を CRVALka の値を用いて他のフレームに変換する場合、参照点から離れた場所で微分誤差が生じる。 例えば電波天文では通常参照点を局所静止基準定数に準拠して一定の視野を観測するが、各 2次元面で共通なのは地表での周波数 (または見かけの速度) であり、局所静止基準に準拠した速度は視野中の球面座標の関数となる。 これを明示するため、2つのキーワードを導入する。 SPECSYSa はスペクトル軸の基準フレームを表し、SSYSOBSa はスペクトル以外の世界座標で一定の基準フレームを表しデフォルトではSPECSYSaに一致する。 使用できる値は次の通り。



SPECSYSa 定義 速度目安 参考文献
TOPOCENT Topocentric(地表座標) 0.0 km/s  
GEOCENTR Geocentric(地球中心座標)   0.5  
BARYCENT Barycentric(重心座標)   30 Stumpf (1980)
HELIOCEN Heliocentric(太陽中心座標) 30 Stumpf (1980)
LSRK Local standard of rest (kinematic) 20 Delhaye (1965)
LSRD Local standard of rest (dynamic) 16.6 Delhaye (1965)
GALACTOC Galactocentric(銀河中心座標) 220 Kerr & Lynden-Bell (1986)
LOCALGRP Local group(局部群座標) 300 de Vaucouleurs (1976)
CMBDIPOL Cosmic microwave backgd dipole 368 Bennett et al. (2003)
SOURCE Source rest frame any  



地表フレームから 地球中心フレーム に変換するのに必要なパラメータは、恒星時と観測所の位置であるが、従来は位置として、緯度・経度・海抜が使われてきた。 しかし地表での速度の計算にはこれらは地球中心の直交座標に変換されるので、ここでは次のようなキーワードを導入した(他の関連キーワードも表には含めている)。



SPECSYSa スペクトル参照フレーム
SSYSOBSa スペクトル参照フレーム(観測中一定)
OBSGEO-X 観測所の X位置$ ^\dagger$(m)
OBSGEO-Y 観測所の Y位置(m)
OBSGEO-Z 観測所の Z位置(m)
DATE-AVG 観測の平均時刻
MJD-AVG 観測の平均時刻 (JD-2400000.5)
VELOSYSa 見かけの視線速度(standard of rest に対する)(ms$ ^{-1}$)
ZSOURCEa 観測天体の赤方偏移 (SOURCE の場合)(単位なし)
VELANGLa 空間的速度ベクトルの方向(相対論的速度の場合)
SSYSSRCa スペクトルの参照フレーム (SOURCEの場合)(上記の表参照)

$ \dagger$: 観測所の位置は標準的な terrestrial reference frame で表し、右手系・地球中心基準・直交座標系・MJD-AVG時点、での値を用いる。



ここで MJD-AVG の値は EQUINOXから見かけの地球中心座標と局所的な見かけの恒星時を求めるのに用いられる (MJD-AVG に用いる時刻システムについては 7.5 節を参照)。

他にも見かけの視線速度を指定するVELOSYSa、観測天体の赤方偏移を指定するZSOURCEa も導入されている。

WCS Papaer III では、この他にもグリズムなどによる分散スペルトルの扱いや、BINTABLE と非線形アルゴリズムの扱い(アルゴリズムコードの 'TAB'で対応。HST のデータの例なども含む)なども扱われているので、それらについての詳細は原論文を参照されたい。

Osamu Kanamitsu
2019-02-15